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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)948号 判決 1949年2月08日

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人高橋己之助の上告趣意第一點について。

他人に暴行又は脅迫を加えて財物を奪取した場合に、それが恐喝罪となるか強盗罪となるかは、その暴行又は脅迫が、社會通念上一般に被害者の反抗を抑壓するに足る程度のものであるかどうかと云う客觀的基準によって決せられるのであって、具體的事案の被害者の主觀を基準としてその被害者の反抗を抑壓する程度であったかどうかと云うことによって決せられるものではない。原判決は所論の判示第二の事実について、被告人等三名が昭和二二年八月二三日午後十一時半頃被害者方に到り、判示の如く匕首を示して同人を脅迫し同人の差出した現金二百圓を強取し、更に財布をもぎ取った事実を認定しているのであるから、右の脅迫は社會通念上被害者の反抗を抑壓するに足る程度のものであることは明らかである。從って右認定事実は強盗罪に該當するものであって、假りに所論の如く被害者田中政雄に對しては偶々同人の反抗を抑壓する程度に至らなかったとしても恐喝罪となるものではない。果して然らば原判決には何等所論の如き擬律錯誤の違法はない。論旨は、理由なきものである。

同第二點について。

記録によると、原審が昭和二三年六月一日辯論を終結したこと、同月十一日所論のような理由により辯論再開並びに證據調の申請書が提出されたこと及び原審が右申請に對する許否につき何等の決定をなさず判決を言渡したことは明らかである。しかし辯論の再開は裁判所の職權に屬するところであって、辯護人の爲す再開の申請は右職權の発動を促すだけのものである。

從って裁判所が再開の必要がないと認めた以上、その申請について決定をする必要はないのである。又、辯論終結後の證據調の申請は、裁判所が辯論再開の必要がないと認めて辯論を再開しなかった場合には、何等訴訟法上の効果を生ずるものではないから、これに對して決定をする必要はないのである。原審は辯論再開の必要なしと認めて判決を言渡したもので所論の辯論再開並びに證據調の申請につき何等の決定をしなかったのは正當である。所論は右申請が刑事訴訟法上認められた攻撃防御の方法であることを前提とするものであるが、その前提が前記の如く認められないのであるから、論旨は理由なきものである。(その他の判決理由は省略する。)

よって本件上告は理由がないから、刑事訴訟法施行法第二條、舊刑事訴訟法第四四六條により主文の如く判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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